不思議な温泉というのがあるもので、ここの貸切風呂はその最たるものだ。
湯小屋に入るや否や鼻腔をくすぐる硫化水素臭で「ああ、ええ硫黄泉じゃあ」と確信しつつ、ざぶんと浸かった肌触りと味で硫酸塩泉にも確定マークを付けてしまう極めて温泉らしいお湯なのだが、分析表を見てびっくり。HS-、H2Sともゼロ記載、なんと硫黄分なしのアルカリ性単純泉だった。空気に触れさせず直接湯船の中に、それもかなりの量の源泉を投入しているおかげで、足元湧出の木賊や鉛と同じように鮮度が保たれているおかげだろう。それにしてもこの匂いはどこからくるのか、不思議だ。42度。
大浴場はよくある落下式の投湯口なので若干飛んではいるが、それでもほんのんり硫化水素臭はある。ただし、入るべきは投湯口側の小区画のみ。右側は40度を切っていて冬場はつらい。つくづく、かけ流しは難しい。
というわけで、夜も貸切風呂に舞い戻る。歴史のある宿ではないが、山の宿らしいこの湯小屋は雰囲気もすばらしい。中央道通行止めの影響で他の客がすべてキャンセルしてしまったとのことで、泊まりは我々だけという幸運(宿には災難、恐縮です)にも恵まれ、昼も夜も朝も極上のお湯を堪能させてもらった。
公共の宿のような佇まいを目にしたときは正直やってもうたかと思ったが、こういう一芸に秀でた宿と分かればリピート必至。通常であれば片道2時間未満というのも捨てがたい魅力だ。