2012年12月8日土曜日

桃の木温泉別館山和荘

不思議な温泉というのがあるもので、ここの貸切風呂はその最たるものだ。

湯小屋に入るや否や鼻腔をくすぐる硫化水素臭で「ああ、ええ硫黄泉じゃあ」と確信しつつ、ざぶんと浸かった肌触りと味で硫酸塩泉にも確定マークを付けてしまう極めて温泉らしいお湯なのだが、分析表を見てびっくり。HS-、H2Sともゼロ記載、なんと硫黄分なしのアルカリ性単純泉だった。空気に触れさせず直接湯船の中に、それもかなりの量の源泉を投入しているおかげで、足元湧出の木賊や鉛と同じように鮮度が保たれているおかげだろう。それにしてもこの匂いはどこからくるのか、不思議だ。42度。


大浴場はよくある落下式の投湯口なので若干飛んではいるが、それでもほんのんり硫化水素臭はある。ただし、入るべきは投湯口側の小区画のみ。右側は40度を切っていて冬場はつらい。つくづく、かけ流しは難しい。


というわけで、夜も貸切風呂に舞い戻る。歴史のある宿ではないが、山の宿らしいこの湯小屋は雰囲気もすばらしい。中央道通行止めの影響で他の客がすべてキャンセルしてしまったとのことで、泊まりは我々だけという幸運(宿には災難、恐縮です)にも恵まれ、昼も夜も朝も極上のお湯を堪能させてもらった。


公共の宿のような佇まいを目にしたときは正直やってもうたかと思ったが、こういう一芸に秀でた宿と分かればリピート必至。通常であれば片道2時間未満というのも捨てがたい魅力だ。


2012年9月23日日曜日

土肥温泉玉樟園新井

温泉シーズン2012-2013開幕。遅めとはいえ夏休みなので、めったに行かない海辺の温泉を選択。あいにくの天気ではあるが駿河湾フェリーで伊豆西海岸に向かう。9月はまだ温泉には暑いかと躊躇したが、荒天のおかげで一気に秋が進み、具合よく温泉日和となった。


雑然とした半島東側と異なり、程よく寂れた土肥温泉に到着。供給過多の温泉街、かつ日曜晩からの2泊3日ということもあり宿はより取り見取り。部屋食・部屋風呂・源泉かけ流し、の子連れ温泉3条件を難なくクリアする玉樟園新井に投宿。


循環の大浴場はパスし、かけ流しの貸切家族風呂をメインで楽しむ。CaNa硫酸塩・塩化物泉42度。沢渡など群馬北部の温泉とよく似た泉質だが、硫化水素臭はまったくない。それにしてもこれが貸切とは良心的、20室クラスの旅館なら立派に大浴場を名乗っていいサイズだ。


しかも外には露天の陶器風呂もある。雨で薄まっていたのは残念だが。


この宿の主力は海の見える新館だが、部屋風呂が沸かし湯という致命的な欠陥(?)があるため、部屋にも温泉がきている木造客室の事実上一択。毎度おなじみ古代檜ブランドの浴槽で源泉かけ流しごっこ、夜も朝も心ゆくまで堪能する。


晴れた中日の昼間は近くの海水浴場で遊べ、行きやすい割には充実したシーズン開幕となった。願わくは、末永く運行してほしい、駿河湾フェリー。


2012年6月24日日曜日

諏訪峡温泉諏訪ノ湯

谷川岳の帰りに寄るとすれば水上温泉だが、泉質のいい共同浴場という条件で選べばここ、水上インターに近い「温泉センター諏訪ノ湯」となる。ただ、廃墟化が進む公営アパートを横目に進む立地で、温泉風情にはほど遠い。


立地とこのたたずまいから分かるとおり、本来は地元住民向けの銭湯的な施設で、隣接の団地が現役だった頃は庶民的サロンとして賑わっていたのだろう。もっとも今も意外なほど客は多く、山帰りなど行楽帰りに立ち寄る同好の士などで、駐車場の大半は県外車だ。


Ca硫酸塩泉41度、やや硫化水素臭。手書きの分析表がいい味を出している。しかも「カチオン」「アニオン」なんて表記が残っていて相当古いものと錯覚するが、分析年は平成22年。何年使いまわしているのだろう、このテンプレ。


狭い浴室に地元らしき爺様数名のほか、6~7人がみっしり。投湯口には近づけず、冷め気味で気の抜けた下流のお湯しか体感できなかった。石膏泉は好きな泉質なだけに残念。2週続けて時間帯が悪かった。共同浴場はできれば午前中、遅くとも5時までに上がる、が鉄則。

2012年6月17日日曜日

上諏訪温泉大和温泉

上諏訪温泉湯小路、地元住民専用の共同浴場が並ぶ古い市街地の路地を歩くと、民家の間にひっそりと「大和温泉」の看板が出ている。奥を覗くと青い「ゆ」ののれんが見えるので間違いなくそれと分かる。が、どう見ても民家の通用口。しかも着いた時には看板の蛍光灯が消えており、ここを入るにはなかなか勇気がいった。


正真正銘民家の中庭、その先に男湯と女湯の入り口が並んでいる。ここは一般的な共同浴場ではなく珍しい個人所有の温泉で、おそらく伝統的な温泉権(水利権のようなもの)を相続していて自宅内に湯を引いているのだろう。あるいは元は温泉旅館だったのか、そのあたりの話が聞ければ面白いのだが・・・


着いたのが遅く地元タイムになっていたため、あまりじっくり味わえなかった。詳細は次の機会にするが、硫化水素イオンが32.3mg、遊離硫化水素が34mgという分析表の数値にたがわぬ、タダモノでない単純硫黄泉であることには間違いない。

2012年5月12日土曜日

下風呂温泉大湯・つぼた旅館

金曜日、仕事が終わったその足で上野駅に向かい、最後の青森行き夜行「あけぼの」に乗り込んだ。たぶん来春の改正で消えるだろうから騒ぎになる前に乗っておこう、と。


翌朝10時前、青森に到着。そのまま新幹線でとんぼ返りも面白いが、ここまで来て温泉なしというのはやはりもったいない。八甲田方面と悩んだ末、下北半島を北上、津軽海峡を挟んで北海道を望む下風呂温泉に向かうことにした。


まずは共同浴場、大湯。中には有人の番台もあり昔の銭湯とよく似た雰囲気だ。ヒバ板敷きの洗い場と、熱め(45度+)とぬるめ(43度+)のふたつの浴槽に酸性・含硫黄Na塩化物・硫酸塩泉(硫化水素型)がこんこんとかけ流されているのが銭湯との違い。泉質名から想像するほど硫化水素臭は強くないが、浴後の硫黄臭はさすがに強い。それにしても、海沿いでこの泉質は意外だ。


もうひとつの共同浴場新湯(今回はパス)の隣り、つぼた旅館に泊まることにした。どこにでもありそうな飾り気のない旅館だが、風呂は場違いなほど良質な(失礼!)本物温泉のかけ流し。大湯とは源泉違いながら白濁した含硫黄塩化物泉は同じ。しょっぱさと酸っぱさはこちらの方がマイルドで入りやすく、温度も43度程度でちょうどいい(加水してるか?)。


宿の雰囲気と泉質のアンバランスにもびっくりしたが、トイレの窓からふと裏山の斜面を見ると、シラネアオイが雑草然として咲いていたのにはさらに驚いた。関東周辺では高山植物と呼ばれ有難がられるものが、海沿いの温泉地の崖に、それもコンクリートで固めた上に咲いているのには軽くめまいを覚えた(※写真は翌日、別の山で撮影)。


下北には、北海道にも勝る最果て感がある。日本最後の秘境は案外ここかもしれない。

2012年5月5日土曜日

別所温泉南條旅館

連休後半の温泉行きは本来2泊3日で帰宅する予定だったが、2泊目の宿がとんだインチキ宿でビジネスホテルに移動せざるを得なかったため、気分直しに急遽もう一泊することにした。別所温泉なら花屋と行きたいところだが、GW期間中に飛び込みで泊まれるわけがない。よってほぼ適当、たまたま空きのあった南條旅館に投宿した。


見かけはきっぱり昭和型の観光温泉ホテル。となると大浴場もそれなり。お湯は財産区の共同源泉なので悪くはないが、ガラスの向こうにある露天風呂なんかは壁と配管を眺めながらの入浴となり・・・どこもかしこも露天風呂の強迫には悩まされていて気の毒だ。


ということで、というより最初からそのつもりだったわけだが、毎度おなじみ部屋風呂堪能企画となる。ぐんと足を伸ばせる良心的な檜風呂で味わう硫化水素イオン12.4mgの単純硫黄泉は、泉質原理主義者にとっては至福の至り。蛇口から出るお湯は45度程度で、好みの温度に調節するのに具合がいい。こんな低濃度の温泉でもたった1時間で白濁し始めるという、部屋風呂ならではの発見もあった。


リカバリープランとしては十分以上の選択だった。たぶんまた行く、花屋が取れないときに。

2012年5月3日木曜日

沢渡温泉まるほん旅館

一番好きな温泉はどこかと訊かれたら、迷わず沢渡温泉と答える。共同浴場もいいが、まるほん旅館のすばらしい檜の湯小屋が雰囲気上積みでさらにいい。浴室ではなく、湯小屋。有名どころの法師温泉あたりと違い、繁忙期でも混雑しないところがなお良い。


CaNa硫酸塩・塩化物泉、ただし溶存物質1.14g/kgで規定ぎりぎりの薄味。だから飽きない。くの字の大きめ浴槽は41-42度、小さめの四角い浴槽は43-44度で少々熱め。湯の回転が速く新鮮なこちらで、浸かっては冷まし、浸かっては冷ましを繰り返す。檜の板床が気持ちいい。


一方、ベランダに無理やりしつらえたような露天風呂は哀しい。何が哀しいって、ここまでして「露天風呂あり」と表示しなければ客が集まらないご時世が一番哀しい。


すばらしいお湯と風格ある湯小屋、それ以上何が要るんだ。
※湯小屋の写真は昨年のもの(何も変わってないが)。

2012年4月25日水曜日

秋山温泉

有休を取った平日の昼過ぎ、実家に帰る妻と子を駅で見送ったらぽっかり時間が空いた。とりあえず近所の山に登ったが、ひとりで家に帰っても仕方がないのでさらに近くの立ち寄り湯へ。

秋山温泉
http://www.akiyamaonsen.com/

スーパー銭湯相当につき写真なし。雰囲気はこちら参照。

低温の単純泉ということで、下部温泉と同じ入浴法となる。体温と同じくらいのぬるーいお湯にじっくり、少なくとも30分はじっと浸かっていると、体がぽわーんと温まってくる。 真冬はさすがにつらいが、これからの季節にはちょうどいい。

ただし、源泉風呂の隣りにある循環の高温浴槽が塩素風呂のため、浴室全体がプールの臭いで充満しているのはいただけない。もし温まりたければ露天風呂の方が、臭いが飛んでいる分まだまし。

中央道上野原インターから山を越えてすぐなので、小仏の渋滞をやり過ごす時間つぶし程度になら使えるかもしれない。が、このあたりで泉質にもこだわるなら藤野やまなみ温泉が断然いい。

2012年4月7日土曜日

廣澤寺温泉玉翠楼、再訪

家にはいたくない、だが気力と体力がついてこない。そんな時は車で1時間の玉翠楼。高尾もそうだが、このあたりも梅と桜が一緒に咲いていて、なんだか珍しい春の風景になっている。


前回はお休みだったタイル張りの「玉の湯」でまず和む。タイルで描かれた壁の美人画(?)が泣かせる。アルカリ性冷鉱泉、循環の42度。


「強アルカリ源泉|美男風呂|不動ノ湯」とか、やたら張り切ってる露天風呂。露天にしては熱めで悪くないお湯だが、休日の午後は山帰りの日帰り客で混雑するのが難点。泊まって朝一番に入るのが最適解。


猪鍋がメイン料理だったり猪グッズが大量に展示してあったり、この宿はある意味イノシシテーマパークなので、風呂にも当然鎮座している。浅野祥雲のコンクリート像を身近に育った愛知生まれとしては、郷愁すら覚える脱力感だ。


でもやはり、お湯の良さでは部屋風呂にかなわない。蛇口からヌルヌル新鮮なお湯が出るからだが、冷水の方はさらに生の源泉だということに気付いた。沸かす前の水にははっきり硫化水素臭があり、飲むと単純硫黄泉そのものの味がする。分類なんてのは所詮法律の都合、冷鉱泉でも良いものはいくらでもある。


幼児の手を引きゆっくり1時間、林道を登ると大釜弁財天の滝に着く。お散歩コースも充実していて、近所にこういう良宿があるのは実にありがたい(※個人の感想です)。


2012年3月24日土曜日

小谷温泉山田旅館

高尾駅には誘惑が多い。東京行き快速の反対側にはいつも小淵沢行きや松本行きがいて、通勤装備のままふらっと下ってしまいたくなる。とりあえず週末、乗ったらどうなるのか試してみた(ということにしておく)


散文的なところはざっくりはしょって、6時間後には雪景色の大糸線、


さらに1時間半後には小雪の降る中、山の中の温泉を目指して歩いていた。


小谷温泉山田旅館、大正時代に建てられた木造三階建ての湯治宿に一泊することにした。帳場のある棟は江戸時代の築だったり文化財級の古さだが(いやいや、本当に文化庁の登録有形文化財)、これまで何軒か泊まった同年代の宿に比べても例外的な「現役」感がある。しかも豪雪地帯、維持は並大抵の苦労ではないだろう。


上の写真の中央あたりにある、元湯浴室の入り口。このあたりは大正の築。床も扉も階段も、全面的に手入れが行き届いていて気分がいい。


やや白濁したNa炭酸水素塩泉、42度。2mほど落下させて温度調整しているだけの、理想的と言っていい源泉の使い方だ。遊離二酸化炭素300mg少々と微量ながら、浴室真裏で自噴しているという鮮度のおかげでしっかり炭酸感がある。金属成分の錆び味もほんのり。


寝湯があるのもうれしい。すべすべ柔らか上品な肌触りのお湯と、析出物でつるつるした寝床のコンビネーションが最高。似た泉質でも塩化物泉(ねばる)や硫酸塩泉(きしむ)だとこうはいかないだろう。


重曹成分が90%を占めるほぼ純粋なNa炭酸水素塩泉なので、もし将来、五感を完璧に再現できるマルチメディア百科事典を作ることになったら、この泉質の代表として掲載したいものだ。

2012年2月25日土曜日

奥湯河原温泉青巒荘

じじばばの接待で奥湯河原温泉青巒荘(せいらんそう)へ。


一見それっぽい佇まいだが、これは尋ねなければ分からない裏メニューのような庭園で、大半の宿泊客には関係ない。表の目玉商品は滝を見ながら入浴できる野天風呂。川を渡るアプローチの演出はいかにもな感じだが悪くない。


環境もいい。お湯もまずまず。しかし、落石対策なのか鳥対策なのか、ゴルフ練習場のようなネットが張り巡らされているのは興醒めだ。風呂をアトラクション程度にしか思っていないがさつな客が多いのも難点。


そもそも宴会場とカラオケで慰安旅行を取り込むような宿を選んだのが敗因。結局と言うか例によって、昭和型レトロ部屋風呂を堪能することにした。


こちらも地域の共同配湯システムから引き湯しており本物の温泉が出る。NaCa塩化物・硫酸塩泉、蛇口での温度は60度ほど。香りと肌触りは硫酸塩泉、味と風呂上がりの粘りは食塩泉。これなら好きな時好きな温度で、大浴場や野天よりずっと新鮮なお湯に浸かれる。極楽。

2012年2月12日日曜日

24時間耐久温泉巡り(4)

第五湯 湯ノ花温泉弘法の湯

南会津の山間部を約200kmぐるりと回り、最初の木賊と尾根ひとつ隔てた湯ノ花温泉まで戻ってきた。まずは弘法の湯、新しく小奇麗な共同浴場。


無味無臭の単純泉で、こってり肌に付いた大塩までの温泉成分を洗い流す(バチ当たるな)。オーバーフローしたお湯の流れる洗い場に寝ころんだら気持ちよさそうだが、行儀悪いので自粛。最初はぬるくて今ひとつだったが、地元のおじさんがバルブを開いて豪快にお湯を注ぎ熱くしてくれた。40→42度。


聞けば隣りの民宿のご主人とのこと。六十は超えていそうだがこの地では若手、ふたつの共同浴場の管理を任されているようだ。この土地の(良くも悪くも)観光地意識のなさ、雪かきの苦労などを聞く。都会暮らしの経験がありそうな理路整然とした語り口。

第六湯 湯ノ花温泉湯端の湯

本当は弘法の湯で終わりにするつもりだったが、湯ノ花で一番のお湯だとおじさんも勧めるので延長戦、湯端の湯に足を延ばす。こちらも建物は新しくよく手入れされている。いずれもトイレ付きでありがたい。写真右上奥、山腹に建つ温泉神社がこの温泉地の由緒を語る。ただし参道が雪に埋もれていて近寄れない。


単純泉43-44度、心地よく熱い。弘法の湯とは源泉が異なるものの、分析表の数値は誤差の範囲。しかしなぜか湯端の湯にはかすかな硫化水素臭がある。分析表はゼロ記載。


入浴券(何か所入っても200円)を買った雑貨屋も5時には閉まってしまい、食事も買い物もできない。今回の温泉はどこも同じで、お金を落としたくても落としようがない。そこがいいと言えばいい。

以上、結果6湯で終了。 総入浴時間(=総全裸時間)4時間弱。総走行距離800km。入浴料合計たったの1000円。

24時間耐久温泉巡り(3)

第四湯 大塩温泉共同浴場

八町・玉梨温泉から会津川口を経て、只見川に沿って車でゆっくり30分、大塩温泉へ。


これは入口の小屋。写真右奥に階段を下りると、只見川に面して張り付いたような湯小屋がある。中は男女別、5~6人でいっぱいになる真っ茶色の浴槽が「これぞ温泉、That's the onsen」的オーラを放ちまくっている(相客多数につき写真なし、残念)。


含二酸化炭素Na塩化物・炭酸水素塩泉。溶存成分9.646g/kgということは、一般家庭の200リットルの風呂に食塩や重曹や石膏を2キロ近くぶち込んだようなもの。八町・玉梨を煮詰めたような、とにかく濃くてしょっぱい温泉。40-41度。


ぬるいおかげで長湯する人が多く混み合っていた。実はあまり得意な泉質でないこともあり15分ほどで退散。そろそろアゴ出てきた。